^ 本当に幸いな女(ひと)
「本当に幸いな女(ひと)」
 

創世記 29章

16節
ラバンにはふたりの娘があった。
姉の名はレア、妹の名はラケルであった。

17節
レアの目は弱々しかったが、ラケルは姿も顔だちも美しかった。

18節
ヤコブはラケルを愛していた。
それで、「私はあなたの下の娘ラケルのために七年間あなたに 仕えましょう。」と言った。

19節
するとラバンは、
「娘を他人にやるよりは、あなたにあげるようが良い。
私のところにとどまっていなさい。」
と言った。

20節
ヤコブはラケルのために七年間仕えた。
ヤコブは彼女を愛していたので、 それもほんの数日のように思われた。

21節
ヤコブはラバンに申し出た。
「私の妻を下さい。
期間も満了したのですから。
私は彼女のところにはいりたいのです。」

22節
そこでラバンは、その所の人々をみな集めて 祝宴を催した。

23節
夕方になって、ラバンはその娘レアをとり、 彼女をヤコブのところに行かせたので、ヤコブは彼女のところにはいった。

24節
ラバンはまた、娘のレアに自分の女奴隷ジルパを彼女の女奴隷として与えた。

25節
朝になって、見ると、それはレアであった。
それで彼はラバンに言った。
「何ということを私になさったのですか。
私があなたに仕えたのは、 ラケルのためではなかったのですか。
なぜ、私をだましたのですか。」

26節
ラバンは答えた。
「われわれのところでは、長女より先に下の娘をとつがせるようなことはしないのです。

27節
それで、この婚礼の週を過ごしなさい。
そうすれば、あの娘もあなたにあげましょう。
その代わり、あなたはもう七年間、私に仕えなければなりません。」

28節
ヤコブはそのようにした。
すなわち、その婚礼の週を過ごした。
それでラバンはその娘ラケルを彼に妻として与えた。

29節
ラバンは娘ラケルに、自分の女奴隷ビルハを彼女の女奴隷として与えた。

30節
ヤコブはこうして、ラケルのところにもはいった。
ヤコブはレアよりも、実はラケルを愛していた。
それで、もう七年間ラバンに仕えた。

31節
主はレアがきらわれているのをご覧になって、彼女の胎を開かれた。
しかしラケルは不妊の女であった。

32節
レアはみごもって、男の子を産み、その子をルベンと名づけた。
それは彼女が、「主が私の悩みをご覧になった。
今こそ夫は私を愛するであろう。」と言ったからである。

33節
彼女はまたみごもって男の子を産み、
「主は私がきらわれているのを聞かれて、この子をも私に授けてくださった。」
と言って、その子をシメオンと名づけた。

34節
彼女はまたみごもって、男の子を産み、
「今度こそ、夫は私に結びつくだろう。
私が彼に三人の子を産んだのだから。」
と言った。
それゆえ、その子はレビと呼ばれた。

35節
彼女はまたみごもって、男の子を産み、
「今度は主をほめたたえよう。」
と言った。
それゆえ、その子を彼女はユダと名づけた。
それから彼女は子を産まなくなった。


30章

9節
さてレアは自分が子を産まなくなったのを見て、 彼女の女奴隷ジルパをとって、ヤコブに妻として与えた。

10節
レアの女奴隷ジルパがヤコブに男の子を産んだとき、

11節
レアは、「幸運が来た。」と言って、 その子をガドと名づけた。

12節
レアの女奴隷ジルパがヤコブに二番目の男の子を産んだとき、


13節
レアは、「なんとしあわせなこと。
女たちは私をしあわせ者と呼ぶでしょう。」と言って、 その子をアシェルと名づけた。


※ルベン=子を見よ
※シメオン=聞く(という意味の語根シャマの派生語)
※レビ=結ぶ(という意味の語根ラバの派生語)
※ユダ=ほめたたえる(という意味の語根のヤダの派生語)
※ガド=幸運
※アシェル=しあわせと思う(という意味になる語根アシャルの派生語)





私の名前は「健二」です。
昔、私の母が「お前が生まれる4年前にお母さんは重一という子を産んだ事がある。
でも、産まれて数ヶ月で病気にかかり死んでしまった。
重一を小さい棺に入れて墓に納めた後も、ずっとその場を離れられずに、母に「もう帰ろう」 と肩をたたかれて帰った。
それをずっと忘れられずにいた。
そして4年後に産まれたのがお前で、今度の子は 元気に健康に育って欲しい、という願いをこめて「健二」という名にした」と言いました。

この様に人の名前には時として親の願い、期待、体験や気持ちが反映されている事も 多いかもしれません。

ヤコブの第一の妻レアが、わが子につけた名前「ユダ」もレアの心に起こったある 変化によるものでした。
「ユダ」は、現在良いイメージがない名前ですが、本来は「神を褒め称える」という とても信仰的で素晴らしい名前なのです。
イエス様を裏切ったイスカリオテユダのイメージが強くて、ユダという名前は 良いイメージがないのでしょう。
今日は、このユダを産んだ幸いな女性、レアを中心に見ていきましょう。

イスラエルの父アブラハムの孫ヤコブ。 このヤコブに因み イスラエルという民族、国家が生まれていきます。 そのヤコブの第一の妻がレアです。 〈創世記29:16、17、20〉 ヤコブは、母リベカの兄ラバンの所で20年働き仕えます。
この20年間のうちに、ヤコブは自分が希望しない妻を、 伯父ラバンの巧妙な策略でめとらされます。
最終的に、ヤコブはレアとラケルの2人の女性と、女奴隷ビルハ、ジルパ を妻としてあてがわれました。
ヤコブは4人の妻を持った事になります。
この時代、一夫多妻は普通であり、 「多くの妻を養える」というのは、その人の力、権力を誇示する一つのステータス でもありました。
もちろん、たとえ律法がない時代 であっても重婚は神のみこころではありません。 罪は罪であり、この重婚という罪によって様々な問題が、混乱が発生した事もあります。 ヤコブだけでなくダビデ王の生涯の中でもそれは示されています。 聖書はこの事を後代の人々への戒めとして記しているのでしょう。
またレビ記18:18には、確かにこの重婚を禁じています。

レビ記 18章 18節

あなたは妻を苦しませるために、妻の存命中に、その姉妹に当たる女をめとり、その女を犯してはならない。

〈創世記29:18、20〉
「ヤコブはラケルを愛していた。」
「ヤコブはラケルのために七年間仕えた。」
ヤコブは妻レアがいるのに「私の妻をください」の発言。

ヤコブはラバンにラケルとの結婚を申し出ています。
ヤコブはこの時84歳です。
彼は147年生きたので、この時は長寿のめぐみの時代だったので、 現在に換算すると、ヤコブは40〜45歳というところでしょう。
ちなみにヤコブが90歳の時に、ヨセフが生まれています。

ヤコブは人を押しのけるとてもずるい人でした。
しかし伯父ラバンは更に狡猾で、ずるい嘘つきでした。
ヤコブはラバンに見事にだまされるのです。
ラバンはヤコブをとても有能な人と見抜いていて、少なくとも 七年間、もしくはそれ以上自分の手元に置いて ただ働きさせようと思っていました。
ラバンはヤコブを罠にはめたのです。

ラバンは3つの狡猾な手段でヤコブをはめます。


1)ラバンは人の心をよく観察していた。

ラバンは長女のレアもヤコブを好きであることを見抜いていました。
ラバンはこれをうまく利用できないかと思ったのです。

ヤコブはラケルとの結婚を夢みて七年間ラバンに仕えます。
そして七年後、ラバンはヤコブとラケルの祝宴の日、 陽も沈み暗くなってからレアをとり、 ヤコブの天幕にそっとレアを送り込みました。
電気もろうそくもない暗闇の中です。
ヤコブは全く気づきませんでした。
祝宴の席でぶどう酒を飲み酔っていた事も考えられます。
レアは顔にベールをしていたでしょうし、 ラケルとは姉妹なので、声も似ていたかもしれません。
そうしてレアはヤコブのところに入っていって祝宴の夜を共に過ごしたのです。
ヤコブとラケルの結婚がヤコブとレアの結婚にすり替えられたのです。
でもレアの心の中に、ヤコブをだまし、妹のラケルを出し抜いて、 心の中に葛藤、良心の呵責はなかったのでしょうか。
ヤコブへの愛でレアの心には悪いと思ってもブレーキが きかなかったのかもしれません。

〈29:25〉
「朝になってみるとそれはレアであった。」
ヤコブにとって天地がひっくりかえるほどの ショックだったでしょう。
ある学者はこのことばは最大の絶望であると言っています。
ラバンは、ヤコブを愛する長女レアの思いをとげてあげたいと思ったかどうかは 不明ですが、ラバンはヤコブから攻撃を受けてもそういうしきたりだといってのがれ、 受けて立つ事が出来たのです。


2)ヤコブはこのレアとの結婚を決して無効には出来なかった。(29:22)

ラバンはその地域の人々をみな集めて祝宴を催した、とは決して 気前が良いからという事ではありません。
当時の結婚式は町中、村中の人が招かれ、 しかも一週間も続いたという一大イベントだったのです。
この集まってくる人々皆が見ている前で、レアはヤコブのところに入っていって 翌朝でてくるのです。
村の人々皆がこの2人の結婚の証人であり、後で取り消したり、 断ったりは絶対に出来ませんでした。
ラバンはその為に村の人々を招いたのです。
とても卑怯です。
そしてラバンの言い訳は、「われわれのところでは、長女より先に下の娘をとつがせるようなことはしないのです。」 (26) と、もっともらしいものでした。


3)ラバンの狡猾さは更に計算されつくされたもので、 ヤコブは本命のラケルを求めてくるとふんでいた。〈29:27〉

ヤコブはラケルのために更に七年間働くことを覚悟しました。
結果としてヤコブはレアの為に七年間仕えた事になるのです。
ヤコブの心の中は、このラバンの策略にあって、 父をだまし、兄を欺いたりしたツケが自分に回ってきたと思ったでしょうか。
ただ、とても悔しい思いはした事でしょう。

この様にしてヤコブは、2人の正妻レアとラケル、 側室としてジルパとビルハ・・・と5人の家庭になったのです。

聖書には、
「ヤコブはラケルを愛していた。」
「ヤコブはレアよりも、実はラケルを愛していた」
と繰り返されています。